2014.5.30

今日から休暇。
前回から10日しか経っていないけれど、
6月の休暇は早めにとらせて頂いた。
そのぶん、次回はひと月以上山に篭ることになる。

5:00に出発の予定で4:00に起床。
昨日作っておいたおにぎりを食べて準備を進めていると、
空が白んできて窓の外が明るくなってきた。
外を見やると美しい朝焼けが!


準備の手を止めて玄関前に写真を撮りに行く。


南方の雲が淡い桃色に染まる


朝日を受ける大喰岳
雪渓が日焼けしている。
頂上に人がいる。
あの位置から穂先と朝日を眺めたらまた格別だろうな〜
なんて思いながら後ろ髪引かれつつ準備に戻る。

5:15、朝焼けに見とれていたぶん遅くなって出発。
小屋前でアイゼンをつけたけれど、
飛騨乗越までは雪が溶けてほぼ夏道。
飛騨沢の雪渓に入るまで一旦アイゼンを脱ぐかどうか迷ったけれど、
付け外しも面倒臭いので石や岩をがりがりと踏んで歩いた。

雪渓の表面はガチガチに凍っていて、
ちょうど僕の体重を支えられるかどうかのクラスト。
踏み抜くと中はグサグサで足をとられやすい。
ペースを上げて一気に下るつもりだったけれど、
転びたくないので抑え気味に歩く。

雪渓の中は所々岩が露出してきている。
ここ数日で一気に雪解けがすすんだ。
6月の雨に打たれて一気に溶けると聞いているので、
その変化もまた楽しみだ。
緩斜面から急斜面になる所に深さ30cmくらいのクラックが走っていて、
状況を観察してから視線を下に送る。

ん?
目に飛び込んできた異変に心がざわつく。
まだ遠くで分からないけれど、人が倒れている?

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ここから先は読んで不快になる方もいると思います。
重い内容になるので、
気晴らしにこの日記を読まれている方は読み飛ばした方が良いかもしれません。
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約150m先に何かが見える。
稜線からは500mくらいか。
左を見やるとその何かに向かって、
墨の切れかけた筆で引かれたような赤いラインが真っ直ぐ伸びている。

人が倒れているにはあまりにも静かで、
遠くにある物も小さく見える。
『クマが山を越える時に足を滑らせて転げたんじゃないか』
『人が滑落したけれど、荷物を残して何処かで休憩しているんじゃないか』
現実を受け入れる前の防衛反応だろう。
どう考えてもあり得ない仮説を頭に浮かべながら、
足早に急斜面を下る。

一歩ごとに現実が近づく。
雪面に見える青い点は3つ。
真ん中が少し大きくて、
前後に小さい点がある。

近い方の点に追いついてみると、
青いスパッツのついた登山靴。
ここで、この先に人が倒れていることが確信に変わる。

5:35斜面も緩んできたので駆け寄りながら声をかける。
反応はなし。

上半身が捻れて伏せているので回り込んで近くによる。
顔の損傷は酷く、血にまみれている。
左手首と右膝から先はありえないねじれ方をしている。
今朝、大喰岳の頂上にいた人だと思われる。

すぐに山荘に連絡。
そして、すぐにバイタルサインの確認。
脈なし。呼吸なし。
手首は冷えているが、体幹は暖かい。

不安定な首を庇いながら
体を仰向けにして心臓マッサージ開始。
セットが終わるごとに少し手を止めて頸動脈が触れないかを探る。

先輩が増援に駆けつけてくれるまでの30分、
ずっと心臓マッサージを続けていた。
ずっと続けていたので、体の熱が奪われていくのも分かった。

ヘリが来るのに2時間ほどかかるとのこと。
雪面にマーキングしてヘリを迎える準備を整えて、
先輩に現場を任せて場を離れる。


体験が大きくてまだ消化しきれないけれど、
こういう状況に立ち会うことの重みをしっかり受け止める必要がある。
休暇明けにはよりしっかりした足取りで山に戻れるように。